Vol.1「ていねいに美しく暮らす 北欧デザイン展」紀行

JR高島屋にて開催された「ていねいに美しく暮らす 北欧デザイン展」紀行

リスタイルは、名作と呼ばれるデザイナーズ家具、北欧家具を多く取り扱っています。店内に一歩踏み入れると、まるでショールームのよう。いわゆるリサイクル家具店とは違い、高級感、洗練された空気が漂います。当店をひいきにしていただいている常連様も審美眼に長けた方やスタッフ以上に北欧ブランドや家具のことをご存じの方がたくさんいらっしゃいます。
北欧家具の魅力の深さは計り知れません。北欧家具についてもっと知りたい、北欧家具を扱うからには「これは絶対行かなきゃ」と見に行ってきました。
足を運んでご覧になった方も、見逃してしまった方にもタメになること、さらにリスタイルだから書けることを何回かに分けて書き残してみようと思います。写真撮影OKということで、写真をたくさん撮ってきました。会場の雰囲気を感じていただければと幸いです。

織田コレクション

この展覧会は「織田コレクション」からの出展です。インテリア雑誌にも特集が組まれたりする椅子研究家の織田憲嗣氏のコレクション。家具好きさんにはおなじみですが、織田憲嗣氏について詳しくご紹介します。

「椅子研究家の織田憲嗣氏が長年かけて収集、研究してきた、20世紀のすぐれたデザインの家具と日用品群。その種類は北欧を中心とした椅子やテーブルから照明、食器やカトラリー、木製のおもちゃまで多岐にわたり、さらに写真や図面、文献などの資料を含め系統立てて集積されており、近代デザイン史の変遷を俯瞰できる学術的にも極めて貴重な資料です。その稀少性と研究実績が世界的にも高く評価され、各国から展覧会への協力要請が相次いでいます。」 (出典:https://odacollection.jp)

ル・コルビュジエLC4

1972年織田憲嗣氏が購入した1脚目の名作椅子はなんとル・コルビュジエのLC4 シェーズロング!
当店でも入荷実績がありました。私はまだお目にかかれたことはありませんが、LC1,LC3は実物をこの目で見ることができたので、ご紹介させていただきます。
「LC1」スリングチェア
ル・コルビュジエと従兄弟のピエール・ジャンヌレ、シャルロット・ペリアンとの共作で知られるLC1チェア。
「住宅は住むための機械である」というル・コルビュジエの言葉が生きた、20世紀の名作チェアのひとつです。
椅子の形を成しているけど、よく見ると座面が浮いているような、吊られているようです。別名「自由に動く背を持つ椅子」と呼ばれています。それは、背当てが後ろに倒れるから。なんと背当ては1回転してしまうほど。
どこから見てもモダンで美しいデザイン。装飾を排し機能性を重視したコルビュジエらしいフォルムです。フレームの骨組みには建築的なデザイン性も感じます。アームはフレームに厚革を掛けただけのシンプルなデザイン。革の柔らかさを肌でダイレクトに感じられます。
「LC3」
LC2のソファから派生し、シングルクッションで構成されたシリーズ。
LC2より幅と奥行きが大きくなり、逆に高さと座高は低くデザインされています。しっかりと存在感のあるフレームと肉厚のクッションでゆったりとした余裕のある座り心地。本革のいいアジが出ていて、かっこいいんです。

どちらもモダンで美しいデザイン。
装飾を排し機能性を重視したコルビュジエらしいフォルムです。この完成された美しいフォルムは、今なお世界中で絶大な人気を誇る名品。
いつか、LC4もこの目でお目にかかりたい!

ちなみに、ル・コルビュジエといえば、社会科の教科書に東京都 国立西洋美術館をはじめとするル・コルビュジエ建築作品が2016年に世界文化遺産に登録されたことが紹介されていて、今や小学生でも知る存在に。

多数の著書も

織田氏は北欧家具やデザインに関するたくさんの本も出版されています。

事務所の本棚にも織田氏の本がありましたよ。

「デンマークの椅子」(1997年・左)
デンマークの名作椅子を多角度から撮影、図面もあり、まるで椅子の解体新書のようです。なかなか本物をお目にかかることができなくても、デザインの美しさをあらゆる角度から堪能できる一冊です。
「フィン・ユールの世界」(2012年・右)
ユールの北欧デザインの巨匠フィン・ユールの家具から日常品の紹介、解説が写真と共に掲載されています。

当店でも何度かフィン・ユールのチェアは入荷しています。
2023年5月現在、ハウスオブフィンユール / House of Finn Juhl 109Chairを店頭でご覧になることができます。 どの角度から見ても、品よく、カッコいい。名作チェアと共に歳月を重ね、自分の価値観や幸福度を高めていきたい方、奮発してみるのもありですね。

実物をご覧になりたい方、ぜひお早めにご来店ください。このチェアの周りだけ凛とした空気感が漂っていることを感じていただけると思います。

北海道旭川市

現在織田氏は、旭川空港の近くに建つ自邸で多数のコレクションとともに暮らしています。でも、なぜ縁もゆかりもないこの地に自邸があるのでしょう。

きっかけは、カンディハウスの創業者 長原實氏からの「椅子の美術館を旭川に創らないか」というお誘いからでした。残念ながら、この話は打ち切りになってしまいましたが、将来、空間の質を体験できる「ライフデザインミュージアム」として自邸を活用することが夢なんだそうです。

そんな旭川市には織田コレクションが見ることができる常設展があります。私たちが気軽にぷらっと立ち寄れるような駅中のギャラリーだったり、無料の施設で名作チェアを鑑賞できるなんてなんて素晴らしいのでしょう。

旭川市が家具への理解が深いのは、古くから北海道大雪山の森の木を伐り出し、生活の道具を作っており、「家具の聖地」と呼ばれているから。
そして旭川市周辺に構える工房で作られる家具を総称して「旭川家具」と呼ばれ、質の高い家具が作られています。

当店でも何度も旭川家具を扱ったことがあるので、いくつかご紹介します。
カンディハウス
織田氏を旭川へお誘いした長原氏が1968年に創業したカンディハウス。ここで、旭川と織田氏がつながったわけですね。

デザイン大国であったドイツで修行をしていた際、北海道から輸入したミズナラでつくられた家具が、高級家具として世界中に輸出されていることに衝撃をうけたことをきっかけに、国内有数の家具産地、北海道旭川でのものづくりにこだわっているそうです。 「湖畔」で過ごす、穏やかなひと時をイメージ。商品名も「COHAN」。北海道の大自然をイメージしたような滑らかな曲線に安心感を感じられます。
匠工芸
「ものをつくる人は、のびのびとした自然環境の中にいなくては」という理由から、1993年に旭川市に工場を移し、「使い手の心に届く家具」をつくり続けています。 一癖も二癖もあるデザイン性に目を奪われます。良質なナラ無垢材をふんだんに使用した贅沢なお品。
一見シンプルなデザインでありながら、細部に様々なこだわりがあり、微妙なフォルムで丁寧に組み込まれた、手の込んだ仕上がりのサイドテーブル。

また、旭川市は1990年から3年に一度、世界中からアイディアを募る「IFDA(国際家具デザインコンペティション旭川」)を開催しています。
世界中から新しいアイディアが集まることで、さらに旭川家具に携わる職人の目が肥え、技術やアイディアの切磋琢磨が生まれ活性化につながっていきます。
そんな旭川の「デザインの追求」が身を結び、旭川市はユネスコ・デザイン都市に認定されました。
さらに、2007年には「旭川家具づくりびと憲章」を制定しました。

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1. 人が喜ぶものをつくります。
旭川に生きる者として、世界の人々に長く愛用してもらえるすぐれたデザインの道具を、丹精込めてつくります。
2. 木のいのちを無駄にしません。
100年かけて育った樹木に感謝し、1本1本を生かしきるとともに、ミズナラの育つ森を次代に渡すため植樹活動に取り組みます。
3. 高品質なものを必要なぶんだけつくります。
材料の仕入れから製造、廃棄まですべての面で地球環境を意識し、質の高い製品を適正な量だけつくります。
4. 修理して使い続けられるようにします。
レストアの体制を整えるとともに、修理や張り替えの容易な構造を工夫して次の世代まで使える家具をつくります。
5. 次代の家具づくりびとを育てます。
これまで培った産学官一体の土壌を生かし、技術と文化を継承する人材を育成しながら、挑戦と実績を重ねていきます。

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そう、この考え、北欧家具に通ずるところがあります。北欧のデザイナーが大切にしていたことが時代も場所も違うけれども、家具づくりを担う人の思想の根幹であり、矜持なのでしょう。
自然に感謝し、使う人の琴線を刺激させ喜ばせる。未来を見据えて高品質で長く使えて、修理が可能。人を育てるといった循環するモノづくりが自然から素材を頂戴して加工する家具作りに時代も場所も関係ないのですね。

話は逸れますが、我々リスタイルのオリジナルブランド、リバイブモブラープロジェクトもこの理念と同じコンセプトで活動しています。プロジェクトについて詳しくはこちらをご覧ください。

リバイブモブラープロジェクト


さて、織田氏の紹介はこの辺にして、今回の本題、「北欧デザイン展」について紹介します。
と言っても、お伝えしたいことがたくさんあるので、複数回に分けて詳しくお話ししたいと思います。

iittala Oiva Toikka Birdシリーズ

第1回目は、かわいい姿でお出迎えしてくれたイッタラ オイヴァ・トイッカのバードについて詳しく。 オイバ・トイッカによるバードコレクションは、元々はフィンランド ヌータヤルヴィ/Nuutajarvi社により1972年ころから製作されました。
ガラス工芸の村”ヌータヤルヴィ”で、熟練の吹きガラス職人と共に完全手作業により製作されている、世界に一つの鳥のオブジェです。
現在は iittala社より製造・販売されています。ヨーロッパ、アメリカを中心に世界中の多くのコレクターによって愛されています。

当店にも何度か入荷したことのあるバード。8体のバードが新たな家族の下へ飛び立ちました。そのうちの3つをご紹介。
Little Tern、日本名コアジサシ
1996年発売当時は色鮮やかに6色展開されていました。
その後、2005年に全色廃盤になると同時にレッドが登場、しかしそのレッドも2014年に廃盤にあり、代替えとして新色のクランベリーが登場しました。
その後は限定カラーがちょくちょく販売されているようです。

ちなみに、2014年にiittala全商品にてレッドカラーが廃盤になったそうです。なので、今後iittalaのレッドカラーの商品に出会ったら、迷いは無用。将来価値が上がるかもしれません。

初心者の方には、リトルターンのように小さ目バードから始めるのがおススメ。
メリットは、飾る場所に困らない。お手頃な価格帯。魅力にはまりコレクションを増やすときも他のバードとのバランスが取りやすいなど。

もう一つのポイント。光を透過するバードは光が入る場所に飾ると、その魅力を最大限に楽しめます。移り行く光の傾斜によって、バード自体が輝くのはもちろん、ガラスの色が壁に映ったりと表情豊かに楽しめます。

mountain red start、日本名ジョウビタキ
1994年に発表され、2007年まで製作されました。
こちらは、ちょっとマットな質感。白、黒、赤の深い3色で模様が入っています。しっぽにかけて透明へと変化するグラデーションがとても美しい一品。
ジョウビタキは、それまでウラル山脈に生息しているとされていたところ、突然イッタラのガラス工場近隣に出現したそう!
そのニュースは瞬く間に鳥類学者の間で話題となり、ガラス職人の豪族の1人がオイヴァ・トイッカにジョウビタキをシリーズに加えることを提案し、コレクションに加えられることになったのだとか。
ジョウビタキもトイッカのバードシリーズの噂を聞きつけて、自分もモデルにしてもらおうとはるばるやってきたのでしょうか。ほっこりするエピソードです。

Long tailed duck、日本名コオリガモ
なんとヌータヤルヴィ/Nuutajarvi社当時のレアものも!1981年頃に販売されたものと思われます。縞模様やガラス特有の透明感や光沢感はため息物です。
縞模様のバードは他にもたくさんありますが、一点一点手作りのバードの中でも特に個体差が出やすく、縞模様の間隔や色の出方など楽しめます。

さて、会場では、iittala工場の製作現場をVTRで見ることができました。

職人たちが手早く、それでいて繊細に形を作っていきます。くちばし部分の製作は命を吹き込む瞬間。目は描かれなくても表情が生まれてきます。

「鳥の流線形のフォルムはガラスオブジェに向いている」とトイッカ自身が語ったように、ひとつひとつ熟練の職人の手吹きで製作されるフォルムは丸みのある鳥の姿を的確にとらえています。

作られるバードのモチーフはすべて北欧で見られる鳥たち。
初めて聞く名前の鳥もいますが、調べてみると日本でも渡り鳥として見ることができます。
遠く離れた北欧と日本を鳥たちが繋げてくれているようです。同じ地球に住み、自然を慈しみ愛する心に共通点を感じます。

環境破壊や地球温暖化など、過去の人間の負の遺産がじわじわと私たちにのしかかってきています。
将来、バードコレクションが絶滅種の鳥だらけにならないように、、、そんな願いも感じ取りました。美しい自然を未来の子供たちにも残さなければ。そのために私たちができる事。
そのヒントが北欧の暮らし、家具や日用品のデザインにありそうです。この続きはまた次回。


次回は、「椅子と生きる」をテーマに、名作チェアのご紹介、北欧の椅子との向き合い方などを書いていきます。

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