北欧デザインの巨匠アルネヤコブセンが手がけた名作家具たち

Arne Jacobsen
アルネ・ヤコブセン(1902-1971)

言わずと知れた北欧デザインの巨匠。チェアやテーブルのみならず照明や時計まで幅広く手がけた天才。

ヤコブセンは、建築からインテリアのみならずカトラリーや空間そのものをデザインしてきました。生み出されてきたプロダクトは傑作と呼ばれるものばかり。北欧はもちろん日本での彼の人気はすさまじいものがあります。

ユーズド家具を扱う当店でも彼の家具が多く入荷してまいりますので、ここでは当店に過去に入荷してきた家具と合わせてご紹介します。

スワンチェア
白鳥をモチーフにした美しいフォルム


アルネ・ヤコブセンの代表作、スワンチェア。その名のとおり白鳥のような美しさと優雅さを湛えた世界的に人気のチェア。素材とデザインの斬新さで画期的な評価を得た名作です。


スワンチェアは1958年にコペンハーゲンのSASロイヤルホテルのためにエッグチェアとともにデザインされました。ちなみにSASロイヤルホテルはヤコブセン自身が設計しています。


スワンチェアにはファブリックや革張りなど多様な素材があり、そこにあるだけで絵になります。その愛らしいフォルムと柔らかすぎず、適度な硬さの絶妙な座り心地で現在もなお人気。硬質の発砲ウレタン素材が使用されており、長時間座っても疲れにくいチェアです。

スワンソファ
美しさはそのままに2人掛けスワンチェア


スワンソファと呼ばれる2人掛けタイプもあります。最近では人気のミナペルホネンとコラボもしていて日本での人気が再熱しています。

エッグチェア
卵を思わせる全身を包み込むフォルム


スワンチェア同様、SASロイヤルホテルの設計に際し生まれた名作、エッグチェア。


卵型に包み込むようにデザインされているのは周囲を遮断し、煩雑なロビーにおいても自分だけの空間を手に入れられるようにと意図されています。

セブンチェア
芸術的なまでに美しい背座一体の成型合板


ヤコブセンは、曲線の美への探求に飽きることを知りませんでした。アントチェアを皮切りに、セブンチェアそしてエイトチェアと続きます。彼の中でもいろいろと可能性を追求して行ったのでしょう。

もっとも有名かつ、忘れてはいけないのは累計生産数が500万台を超えているセブンチェア。


ヤコブセンは非常に進取の気性にあふれた人物で、成型合板が軍需技術から民生化されるといち早くこの技術を取り入れました。エッグチェアなどの発泡ウレタンのそれもまた然り、最新の技術を自分の作品に昇華しているところから、かなりの新しい物好きだったのかもしれません。


こちらもアーム付や革張りなど、カラーバリエーションも多数あります。


また、世界的に有名なセブンチェアより前に発表されたアントチェアやモスキートチェアも忘れてはなりません。

アントチェア
20世紀史に残るヤコブセン最大の名作


1955年に誕生したアントチェア。絞った腰のラインと細長い脚が、アリを連想させるところからアリンコの愛称で世界的に親しまれています。

アントチェアは、座面・背面が一枚の三次元形成合板で作られた世界で初めての椅子です。デンマークで積み重ねることが可能なスタッキング機能を付けたのもこの椅子が最初なのだとか。とても軽くて持ち運びも楽々。セブンチェアよりも3年前に発表されています。

モスキートチェア
ムンケゴーチェアの名で復刻された名作


こちらはセブンチェアと同時期1955年デザインのFH3105。モスキートチェアとも呼ばれています。デンマークのムンケゴー小学校の内外装をプロデュースした際にデザインされたものです。

モスキートチェアはムンケゴーチェアの名で復刻されています。しかしながらチーク材は生産されていないのでレアものです。

Tチェア
現在は生産されていない希少価値の高い名作


こちらもセブンチェアと同時期1955年デザインのFH3103。Tチェアとも呼ばれています。


1955年から1970年代まで販売され、現在は生産されていませんのでヴィンテージでしか手に入らない希少チェアです。

エイトチェア
ヤコブセン最後の集計合板の名作


1952年のアントチェアに始まり、このエイトチェアがアルネ・ヤコブセンの最後の成形合板の作品です。

1969年に竣工したデンマーク国立銀行のためにデザインされ、翌1970年のデンマーク国際家具見本市で製品として初公開されました。しかし、当時の成形合板の技術ではこの深い三次局面の成形が難しく、品質管理で認められませんでした。

その後、数年で絶版となり、ヴィンテージのエイトチェアはとても希少価値があります。2007年、現在の技術でこの完璧なフォルムを実現し復刻されました。

エイトチェアは、ヤコブセンの名作チェアといえどなかなか目にする機会も少ないですね。また、リリーという名称で親しまれている白ペイントも取り扱いがありました。この曲線美がとてもグラマラスです。

スーパー楕円テーブル
シンプルで計算された時代の先をゆくデザイン


チェアが数多くのバリエーションを生んだのに対して、彼がデザインするテーブルは無駄をそぎ落としてチェアの引き立て役になるようにシンプルで最高の物を生み出してきました。

その代名詞と言えるのがフリッツハンセン/Fritz Hansenスーパー楕円テーブル、通称Bテーブルです。ちなみにこれはビート・ハイン、アルネ・ヤコブセン、ブルーノ・マトソンの3名がデザインしました。

フリッツハンセンの人気商品で、大変シンプルで計算されたデザインが特徴。この独特なカーブは数学者のピート・ハインが生み出しています。

デザイン性や機能性が熟考されていて、完成された天板のフォルムは見た目の美しさに使いやすさや和やかなムード作りにも配慮されています。特に脚部の造形美は建築にも精通していたアルネヤコブセンらしいデザイン。家具デザインの粋を超えた存在感があります。

使い手第一と考えてデザインされたスーパー楕円テーブル。機能性にも満ちていて脚部の開放的な作りは椅子と合わせやすくダイニングで使用しやすいデザインですが、自由な感覚で使用出来るテーブルですのでちょっと広めのワークスペースや作業台にもなります。

リラックス空間で使用し、集まって談笑したりと華やかな雰囲気作りにも一役買いそうです。

4スターベース ラウンドテーブル
エッグチェアやスワンチェアと相性抜群


フリッツハンセンの100㎝、4スターベースのラウンドテーブルです。とてもシンプルで無駄のないデザインです。

スーパー円テーブルと同じメラミン素材の天板はよく目にしますね。北欧の家具好きなら一度は行ってみたいデンマークのSASロイヤルホテルでエッグチェアやスワンチェアと一緒に使われていたテーブルと同じタイプです。

ドロップチェア
愛らしく可愛らしい個性的なやさしさ


コペンハーゲンのSASロイヤルホテルのためにデザインされたチェア。SASロイヤルホテルといえばエッグチェアやスワンチェアが有名です。実はこのドロップチェアはスナックのバーに配置されていました。

その後は量産されることもなく幻のモデルと言われ、50年以上たって再販されるようになりました。

私はこれ斬新で可愛らしくて結構好き。あの時代にこのデザインをやってのけるヤコブセンはやはりすごい。写真は当時のフォルムをプラスチックで再現したものですが、オリジナルの布やレザーのフルパディングも加わり復刻されたようです。すっぽりと体にフィットして、なかなか座り心地もいいですよ。

ドットスツール
ヤコブセンの隠れた名作


ヤコブセンがデザインした隠れた名作、ドットスツール。アルネ・ヤコブセンがアリンコチェアと同時期の1950年代にデザインし、フリッツ・ハンセン/Fritz Hansenが制作したスツールです。

写真はフリッツ・ハンセン社製、3本脚タイプのドットスツールのヴィンテージ。大変希少なものが当店にも入荷しましたがすぐに売り切れてしまいました。

いつまでも飽きることのないシンプルなデザインに美しいフォルム。

このデザインにあたりアルネ・ヤコブセンはフリッツ・ハンセンの工場で多くの時間を費やし完成させたとのこと。1970年には4本脚が登場しその後廃番となりましたが、2009年に復刻されました。

アルテックなどのスツールの個性に比べたらシンプルすぎると言われそうです。しかし、様々な家具に相性が良く北欧家具などに合わせてみるととても似合うんですよ。

シンプルな上品さと高級感があり、緩やかにカーブした座面とステンレスを使用したシャープな脚部が絶妙なバランスです。

スツールとしてももちろん玄関先にチョンと置いても可愛らしいし、スタッキングもできるので利便性もいいです。ヤコブセンの隠れた名作として、ドットスツールは持っていると自慢できます。

AJランプ
チェアやテーブルだけじゃない


ヤコブセンはチェアなどの家具だけでなく、照明やカトラリー、時計などのプロダクトデザイナーとしても類い希な才能を発揮しています。

AJシリーズはテーブルランプ、フロアランプ、ウォールタイプなどがありますが、こちらのシリーズランプもロイヤルホテルのためにデザインされたもの。その翌年ルイスポールセン社によって製品化されました。

この非の打ちどころのないプロポーション。線、角度、円、円柱を相互作用させた知的なデザインです。ヤコブセンのデザイン哲学を象徴するようなスタイリッシュなフォルムが時代を超えて愛され続ける理由です。

その高いデザイン性はどのような空間にもスッキリと馴染み、和洋問わず幅広いシーンで使えます。

単体で置いてインテリアのオブジェとして使うのもオススメです。可動式のシェードなど光のバランスを考慮された構造で、空間をスッキリ美しく演出するデザインはもちろん、機能性にも優れた名作です。

シリンダライン
建築的な世界観を表したテーブルウェア


シリンダラインシリーズのテーブルウェアは世界各国の近代美術館が永久コレクションに選定するなど、まさにモダンデザインの金字塔と呼ぶにふさわしい名作です。彼のストイックなまでの完璧主義が反映された大変美しいプロダクトと言えます。

製造はデンマークのステンレス製のテーブルウェア専門メーカー、ステルトン社。実はステルトン社の社長は、ヤコブセンの義理の息子ペーター・ホルムブラッドなんだとか。

当時、彼が直接ヤコブセンにデザインを依頼し多忙のために断わられます。しかし、彼は諦めずにお願いし続け、ヤコブセンはやむなくあるパーティーの席で紙ナプキンにスケッチします。

このスケッチこそがシリンダラインの原型となるわけです。角張ったところも継ぎ目もないステンレス加工は当時画期的だったそうで。この理想のフォルムを作り出すことが難しく、ステルトン社は3年もの月日をかけて製品化に至ったのだとか。

そして、シリンダラインは大きな反響を呼び、これによって経営不振だったステルトン社は業績がみるみる回復します。


当時すでに売れっ子だったヤコブセン。ステルトンの社長が義理の息子じゃなかったら、この名作は実現しなかったかもしれませんね。MoMAをはじめとする多くの美術館のコレクションに選定されています。いかにデザイン史に残る名作なのかがうかがい知れます。

ヤコブセンの生み出してきた名作はここではご紹介しきれないくらいに数多くあります。

今でこそ名建築といわれるSASロイヤルホテルも計画中は非難囂々たるものだったそうです。当時最も重要視されていた伝統的な様式を否定し、軽やかで未来的なフォルムを求め続け、新しいものが大好きだったヤコブセン。

現代のわたしたちが新鮮で美しく感じるように、当時はまだ時代が彼に追いついていなかったのかもしれませんね。

(文:柴田)

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