北欧のやさしいかたち_リサ・ラーソンとリンドベリの物語

2024年3月、92歳で永眠した世界中から愛された、可愛くて穏やかな陶芸作家リサ・ラーソン。
先日ご紹介の柚木沙弥郎さんに続き、私の大好きな芸術家です。
今回は、彼女と彼女を見出した師匠(こちらも私の好きなスティグ・リンドベリ)との関係性も踏まえて彼女の魅力をお伝えしたい。

その出会いがすべてを変えた


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

【北欧陶芸界の詩人・リサ・ラーソンと、天才デザイナー スティグ・リンドベリの物語】

小さな才能を見つけた、大きなまなざし。
1954年、スウェーデン。
若きリサ・ラーソンは、美術大学(HDK)で陶芸を学ぶ学生だった。素朴で温かみのある作品は、どこか詩のような静けさを湛えていたが、彼女自身はまだ「自分の道」が見えていなかった。

そんなとき、運命の出会いが訪れる。
ヘルシンキのデザインコンペで彼女の作品を見た、ひとりの男がいた。

スウェーデンを代表するデザイナー、スティグ・リンドベリ。当時、老舗陶器メーカー「グスタフスベリ」のアートディレクターを務めていた彼は、リサの作品にただならぬものを感じた。

「この子は違う。すぐに連れてこよう。」

リンドベリはそう言い放ち、リサをグスタフスベリに招いた。
ここからすべてが始まった。

(画像:「リサラーソン作品集」|より)

自由と遊び心のなかで、花開いた才能

リサは、グスタフスベリで最初の頃、リンドベリのアシスタントとして働いた。彼の周囲には、色、形、パターンに対する実験的な試みが溢れていた。自由で、奔放で、型にはまらない発想。リサにとって、それは驚きであり、刺激であり、何よりも「許された感覚」だった。

「あなたのやりたいように作りなさい。」

リンドベリはそう言って、リサに創作の自由を与えた。
その言葉に背中を押されるように、リサは少しずつ、自分だけの世界を形にしていく。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

開花した才能。「ユーモア」と「人間らしさ」

ライオンのオブジェ、ネコの彫像、子どもたちの小さな物語。
どれも、ただ「可愛い」だけではない。人の内側にそっと寄り添うような、やさしさと孤独を抱えた造形だった。

それは、リンドベリの作風とは明確に違っていた。
彼の作品はグラフィカルで大胆、パターンや色彩で遊ぶような表現が多かった。(その中で子供のように遊んだような、リサに近い作品もあるが。)だが、根底にある「ユーモア」と「人間らしさ」という精神は、2人に共通していた。

リンドベリの作品はこちら

師弟というには、あまりに自由でフラットな関係

リンドベリはリサを「指導」するというよりも、「信頼し、見守る存在」だった。親友のような家族のような存在。
彼のもとで、リサは作家としても、人間としても、自立していった。自分の手で、陶土を通して、世界とつながる術を学んだ。

「リンドベリは、私に“自分らしくあっていい”ということを教えてくれた」
リサは後にそう語っている。
2人の間には、明確な共作は残っていない。しかし、リンドベリが蒔いた種は、リサ・ラーソンという花となって、北欧陶芸の歴史に咲き誇ることになる。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

静と動。奇才と詩人。2人の存在が育んだ北欧の美。

北欧デザインの黄金時代。
リサがグスタフスベリから独立するまでの四半世紀の間、専属デザイナーとして300を超える作品を世に送り出した。

その中心には、スティグ・リンドベリのような奇才の巨星がいた。
そして、その光の傍らで静かに輝いていたのが、リサ・ラーソンという詩人のような作家だった。
リサがいたからこそ、リンドベリの「自由」は継承され、リンドベリがいたからこそ、リサの「らしさ」は育まれた。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

2人はまるで、ひとつの物語の表と裏。
リズムと旋律。空と地上。
そして今、私たちはそのどちらの作品にも心を奪われ、思わず微笑んでしまうのだ。
先見の明があったリンドベリと才能に溢れたリサ。
この二人の出会いが、グスタフスベリの成功を支えた。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

ふと目をとめた陶器の少女が、こんな物語を背負っていると思えば──。
その作品は、ただのインテリアではなく、あなたの心のどこかにそっと棲みつくのかもしれない。

こんな物語の中、生まれたリサの作品には、人を惹きつけてやまない魅力がある。
リサ・ラーソンの作品はこちら
リンドベリがいたからこそ、リサが自由に自分らしく作品作りができた。素敵な師弟関係です。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

◆ スティグ・リンドベリとは?
* 生没年: 1916年 – 1982年
* 職業: スウェーデンを代表するデザイナー・陶芸家・イラストレーター
* 代表作: Berså(ベルソ)、Spisa Ribb(スピサ・リブ)、Karneval(カルネヴァール)など
20世紀の北欧モダンデザインを牽引した巨匠で、陶器・テキスタイル・絵本まで手がけたマルチクリエイター。

◆ リサ・ラーソンとの関係性
1. リサの才能を見出した「発掘者」
* 1954年、リサ・ラーソンは美術大学(HDK)を卒業後、就職活動中でした。
* リンドベリが北欧の美術大学の公募展でリサの作品を見て、「グスタフスベリに来なさい」と声をかけたのが、全ての始まり。
* 彼は当時、グスタフスベリ社のアートディレクター(デザイン部門のトップ)でした。
2. リンドベリの下でキャリアをスタート
* リサは当初、リンドベリのアシスタント的な立場からスタート。
* 実験的なデザインや形作りの中で、リサ自身のスタイルを確立していきます。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

あなたの「推しリサ」は?

リサ・ラーソンの作品には、「自分の中でなんだか気になるあの子」が必ずいます。
それはネコかもしれないし、うつむいた女の子かもしれない。
理由は説明できないけれど、なんだかそばに置いておきたい。
お次は、リサ作品の代表的なシリーズを「推しポイント」付きで紹介!
あなたの“運命の一体”に出会えるかもしれません。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

🦁 【動物シリーズ】
◎ 推しタイプ:無言の癒しを求めるあなたへ
■ ライオン(LION)
* 代表中の代表。手のひらサイズから大物まで展開
* 正面顔なのに、どこか哲学的な表情が◎
* 「家の守り神」として人気

(画像:「リサラーソン作品集」|より)

■ ネコ(MIA、LILLA KATTなど)
* 細長ボディに小さな顔。スン…とした目つきが最高
* ネコ好きは全員ときめく造形美
* 表情に“ちょっと疲れたOL感”があるのも味

(画像:「リサラーソン作品集」|より)

■ ハリネズミ・シロクマ・ゾウ…
* 子ども部屋やデスクに置いておきたいサイズ感
* 「これってリサ?」と聞かれる確率100%

(画像:「リサラーソン作品集」|より)

👧 【少女シリーズ(ABCガールズほか)】
◎ 推しタイプ:感情を言葉にしにくいあなたへ
■ ABCガールズ(Annika、Britta、Cilla…)
* 一体ずつ名前がついている
* 目を伏せ、じっと考えるような子が多い
* まるで自分の子ども時代と向き合う鏡のよう

(画像:「リサラーソン展覧会」|図録より)

■ 世界の子どもたち(All världens barn)
* 各国の衣装をまとった子たち。国際感覚と平和のメッセージあり
* ぽってりとした手足、すこし恥ずかしそうな立ち姿がたまらない
■ 祈る少女・読書する少女
* ひとつひとつが無言の物語を感じさせる
* ミニ彫刻としてインテリア性も高い

👩‍🌾 【人物シリーズ(Stora Zoo、Skulpturなど)】
◎ 推しタイプ:オブジェに語りかけたくなるあなたへ
■ 女性像(母・妻・読書する女の子)
* 肉感的でリアル。どこかユーモアのある表現
* 「どこか不恰好なのに、なんか好き」と言われがち
* 北欧的な“普通の女性”を造形化している点が秀逸

(画像:「リサラーソン作品集」|より)

■ Stora Zoo(大きな動物シリーズ)
* 存在感ありすぎ。玄関や棚の主役に
* オークションでは高額になることも…


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

心がほどける、北欧の暮らしとリサの世界

最後に。

SDGs達成度ランキング・幸福度ランキングで、北欧の国々は常に上位にランクインしています。

税金は高いものの、その分、福祉や教育が充実しており、人々はそれを“安心・信頼・公平”という形で受け取り、税を「社会への投資」として前向きにとらえる傾向があります。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

また、オンとオフの切り替えがしっかりしているのも北欧らしい特徴です。

たとえば、午後4時には仕事を終え、夜や休日には仕事を持ち込まず、夏には1か月ほどの長期休暇をとることも珍しくありません。

そんな北欧の風土のなかで生まれたリサの作品には、どこかゆったりとした空気や、自然と寄り添う暮らしの心地よさが感じられます。
きらびやかさはなくても、シンプルであたたかくて、そばにあるとほっとする――そんな魅力がつまっています。

“ちゃんと休む”“自分の時間を大切にする”という北欧の考え方が、リサの作品にもやさしく息づいていて、見ているだけで心がふっとほどけていくようです。


(画像:「リサラーソン作品集」|より)

「この子を選んだ理由はわからない。けど、ずっと見ていたい。」

そんな気持ちを抱かせるリサ作品は、もはや“人格を持った小さな住人”。
あなたの“推しリサ”がまだ見つかっていないなら、ぜひ今回の北欧デザインのある暮らし展に足を運んでください。
お気に入りの子が見つかるはずですよ。

「北欧デザインのある暮らし」イベント開催中!

(文:柴田)

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