剣持勇 ラタンチェア特集

剣持勇 ラタンチェア特集


2025年1月11日テレビ東京で「新 美の巨人たち」で剣持勇のラタンチェアの特集が放送されました。とても興味深く視聴しましたので、ご紹介させてください。


剣持勇氏と言ったら、RESTYLEでもカブトチェアが何度も入荷しています。今回テレビで紹介されたラタンチェアはまだ見たことないなーと思ったら、私が入社する前に一度入荷実績がありました。実物を見れなくて残念。。


剣持勇氏はジャパニーズモダンを提唱し、日本のインテリアデザインをけん引してきたデザイナー。ここで詳しく経歴を描く必要はないかな。。

でもこれだけは言いたい!

1968年あのヤクルト容器をデザインしたんですって。いつも我が家の冷蔵庫に常備してあるヤクルト。世界的デザイナーと我が家にも接点があっただなんて嬉しくなっちゃいます。一気に親近感がわいてきますね。

ラタンチェアのはじまり


高度成長期の真っただ中、東京オリンピックを目前にした1960年ホテルニュージャパンのインテリア全てを請け負った剣持勇がラウンジチェアとしてデザインしたのが始まり。


籐の丸椅子とも呼ばれるラタンチェアの誕生です。


著作者:DC Studio/出典:Freepik


剣持勇氏は原寸大の精密な設計図を描くデザイナーだったそうです。特に椅子は人が直に触り身をゆだねるもの。設計の段階から大きさや細部まで把握しなければなりません。
しかし、ラタンチェアの設計は大きく違っていました。ラフな手描きによるイメージ図のみ。ヤマカワラタンの職人と共に直に手で触れながらイメージを形に仕上げていったそうです。そのプロセスは図面には表現しえない世界があったんですね。


「デザイナーは技術に精通した芸術家である」と残しています。


放送ではヤマカワラタンからその技術を受け継いだ工場の作業風景を見ることができました。

太い籐を蒸気で蒸して柔らかくして大小の輪っかを成形。枠組みを組み立てて、いよいよ籐編み作業に。肌に当たって柔らかく心地よい表面を作り上げるのは熟練の職人でも何時間もかかる大変な作業。


こちらは、ヤマカワラタン ナナ・ディッツェルデザインのハンギングエッグチェア。ラタン編みの確かな技術がこちらにも見ることができます。

卵の柔らかなフォルムに包まれてゆらゆらくつろぐ時間は何物にも代えがたい時間の流れを味わうことができます。

程よい閉塞感と丸みに包まれる感覚、独特の浮遊感。人間のDNAに刻まれた安心感。それは、お母さんのおなかの中にいるような感覚に似ているからではないでしょうか。


デンマークのデザイナー Jorgen Ditzel , Nanna Ditzel の夫妻によりデザインされ、ヤマカワラタンによって1957年に発表されました。ドラマで採用されて一気に人気になりましたね。


最近ラタン家具が再び注目されているんですって。昭和チックな懐かしい感じがするラタン。
昔おばあちゃん家にあったな~なんて、思い出します。あとは、温泉の脱衣所のカゴとか。


それが今、自然素材を使い手仕事感を味わえるとあって、注目されているんです。忙しく疲れた現代人にの心に響くんでしょうかね。
放送でも言ってましたが、ラタンチェアは和の空間はもちろん、洗練されたモダンな空間にもしっくり馴染みます。

同じように、ラタン家具を異素材、異空間に合わせてみてもいいかもしれませんね。

真逆の椅子



(出典:天童木工カタログ)

おもしろいと思ったのが、ラタンチェアを同時期、1961年にラタンチェアとは正反対な椅子を発表したこと。

天童木工から販売されている柏戸イス。こちらは丸太のような臼のような見た目。当時のお相撲さんからその名を付けたそうです。


(出典:菅澤光政 「天童木工」 美術出版社 2008年)

杉の根元の荒々しい木目の材木を使い、どっしりと力強い印象。


同時期に「静と動」、「軽と重」を表現したのが興味深いと思いませんか。タンポポの綿毛のように軽やかなラタンチェアと臼のように荒々しく重厚な柏戸イス。


「椅子とは何か。椅子は家具の中でも最も設計製作の難しいのの一つに数えられる。なぜかと言えば椅子が人体に接触して用いられる点では家具中随一であるからだ。つまり快適良否の判断が直接人体の感覚によって決定される。」

(引用:剣持勇「規格家具」相模書房 1943年)


色んな椅子をデザインする中で、剣持勇氏が大事にしていたものは何か。

僕の栄養剤


剣持勇氏はこけし、達磨、人形やお面といった民俗工芸品に魅せられていたそうです。生活の中で使わていた道具や民具。無名の人が作ったその土地から自然に生まれたような素朴な美。いい」ものは昔も今も変わりない。誰がデザインしてどうやって生まれたかわからないものを作りたい、と思っていたそうです。

チャールズ・イームズとの親交を深める中で、ジャパニーズモダン、つまり日本の古くからの美を近代の技術と融合させ、世界に通用するデザインの創造を始めました。


ここで振り返ると、ラタンチェアは赤ちゃんを入れるわらで編んだ籠、嬰児籠(えじこ)に似ていることが分かります。そして、柏戸イスはどっしりとした達磨のようにも見えます。


日本古来の造形と最前線のモダンなデザインはまるで血と骨のように剣持勇氏の中で強く結ばれていたんですね。日本人だからこそ生まれるデザイン、それをイイと思える感性。


ラタンチェアの画像はネットをググればたくさん出てきますが、今回この番組を見て、制作秘話や剣持勇イズムを少しでも感じられて濃厚で有意義な一時間を過ごすことができたなと、とても満足しております。


(文:長谷川)

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