人生はワクワク探し。柚木沙弥郎の魅力。

人生は、ワクワク探し。

「“楽しい”はエンジョイということでしょう。仕事が楽しいっていう人も多いけど、でもそれだけじゃ足らないな。仕事は“面白い”ですよ。“面白い”は自分の内側から興味が湧き上がること。英語にするならラブだね。なんでこの人を好きになっちゃったんだろうというような切実が、仕事には必要なんだ」
(画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

2024年の1月の終わり、わたしの大好きな芸術家の一人、染色家の柚木沙弥郎さんが亡くなった。

命が尽きるのは当たり前のことだが、やはり悲しいですね。 最近、大好きな朝ドラの「あんぱん」も終わって、寂しい。ロス。あんぱんロス。あんぱんも、ずっと見ていて、やはり命について考えさせられました。
いけないいけない…あんぱんについて語りだすとまた脱線して長くなるのでこの辺で…。沙弥郎さんの人生も朝ドラしてほしい…いけないいけない脱線。
(画像:柚木沙弥郎 公式HPより)

無邪気で、健やかで、伸びやかな芸術家

リスタイルには度々、沙弥郎さんの作品が入荷することがあります。
今回、過去にないくらいの物量で、また素敵なご縁で沙弥郎さんの作品がたくさん入荷してきましたので、この機会に無邪気で、健やかで、伸びやかな、沙弥郎さん(勝手に名前呼び)のことを書いてみたい。
冒頭の言葉は、いつかのBRUTUSに載っていた沙弥郎さんの言葉。沙弥郎さんの健やかな素敵さが伝わる、大好きな言葉です。
仕事に限らず、いつもワクワクして暮らしていた沙弥郎さん。書籍やさまざまな番組で、沙弥郎さんのことを知れば知るほど、大好きになります。

(画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

核となる「民藝」の思想。

柚木沙弥郎さんは、「民藝運動」を進めた柳宗悦の思想に触れ、染色家の芹沢銈介に師事していました。
「型染」という技法を核に、服地や着物、帯など実用的なものから空間を飾る一点ものまで、布の持つ可能性を押し広げてきました。 今年は民藝運動がスタートしてちょうど100年。
(画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

柳宗悦(やなぎむねよし)、濱田庄司(はまだしょうじ)、河井寛次郎(かわいかんじろう)を中心に始まった運動は、今でも多くの人を惹きつけ賛同されています。 民藝は「民衆的工芸」の略で、無名の職人が作った日常の器や道具の中にこそ“ほんとうの美”があるという考え。
若い頃に出会った、この「民藝運動」の精神――「美は特別な場所にあるのではなく、暮らしの中に宿る」という考え方。
彼の魅力は、その思想を守るだけにとどまらず、民藝が大切にしてきた素朴さに、思い切り自由な発想と鮮烈な色づかいを重ね合わせ、見る人をワクワクさせる表現へと広げてきたのです。
自らの創作に遊び心と現代的な感覚を重ねることで、民藝の世界をより広く、豊かなものへと開いていきました。 (画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

お気に入りのモノ、“好き”に囲まれて生まれた作品たち

パッと目に飛び込んでくる鮮やかな色、思わず微笑んでしまうような大胆でユーモラスな形。そのどれもが、沙弥郎さんの作品を特徴づけています。思わず自宅に置いて愛でたくなるような可愛さがあります。

沙弥郎さんのご自宅やアトリエには、彼が選んだ玩具や置物、人形などが所狭しと並んでいます。
そんな大好きなモノたちから(時には運送会社の伝票の裏からも!)インスピレーションを受けて彼の作品が生まれている。
沙弥郎さんのアートに触れると、日常の景色が急に生き生きと輝き出すような気がしてきます。

鮮やかな色彩に、ユーモラスな形。見ている人の心を軽くして、日常をちょっと楽しくしてくれます。 民藝の「用の美」に、遊び心と自由な発想を重ね合わせた柚木さんの作品は、私たちに「暮らしそのものがアートになりうる」ということをやさしく教えてくれる気がします。 (画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

未来へつながるまなざし

90歳を超えてなおワクワクを大事に、好奇心旺盛に制作を続けた柚木さん。
その姿からは「美は暮らしの中にある」という信念が一貫して感じられます。民藝の理念を時代に合わせて咀嚼し、遊び心を加えて広げてきた彼の表現は、これからの暮らしの中で「美しさをどう楽しむか」という問いに、大きなヒントを与えてくれます。
(画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

染色から版画、ガラス絵、絵本に至るまで、ジャンルを超えて広がる作品は、どれも暮らしに寄り添うような温かさがあります。食卓にかける布や、壁に飾る一枚の絵、ページをめくる絵本――それらは特別なものではなく、日々を彩る小さな喜びそのもの。
柚木沙弥郎さんのアートは、「暮らしと美の距離をなくすこと」。それは民藝の精神を未来へつなぐ、やさしくて力強いメッセージです。
民藝の温かさをベースにしながら、色彩と形で「暮らしそのものを楽しくする力」を持っています。作品を通して私たちに届けられるのは、芸術ではなく日常を愛するためのメッセージなのです。 (画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

沙弥郎さんの“永遠のいま”

行ってきました。静岡市美術館。
こちらで現在(2025年10月)、柚木沙弥郎さんの展覧会が開催されています。
リスタイルがある愛知県春日井市からは、高速を飛ばしても車で2時間以上かかるため、どうしよーかな〜。と思っていたところに沙弥郎さんの作品の大量入荷!これはやっぱり見に行く!と、ワクワクしながら行ってきました。

会期も終わりに近づいているのに、会場にはすごくたくさんの方がいらっしゃいました。
若い方から、大人の落ち着いた方、おじいちゃんおばあちゃん、幅広い方に支持されているのだと改めて実感。
静岡での会期はもうすぐ終わってしましますが、巡回で次は東京で開催されるそう。ぜひ。
(画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|静岡県美術館 会場入り口より)

ワクワクを大事にしてね

以前に見たNHK日曜美術館で、沙弥郎さんの101年の生涯を特集した回。
その中で、心臓に疾患をかかえた12歳のお子さんが沙弥郎さんに宛てた手紙に、沙弥郎さんの展覧会に行き「ワクワクがとまりません」と書かれていた。
歳の差90歳のお友達との、手紙でのやりとりはとても素敵なものだった。嘘のない二人のやりとり。 「そのままでいい。ワクワクを大事にしてね」沙弥郎さんの亡くなる数ヶ月前の12歳の彼に向けた素敵な言葉が、私の心にも大きく響きました。
(画像:hana表紙より)

長く楽しく健やかに。亡くなる最後まで作品を作り続けていた沙弥郎さん。

あるインタビューで「もっと長生きできたらいいなあ」と、答えた沙弥郎さん。
「やってないこと、できてないことがたくさんある。まだ何かできるはずだと気づいたの。ほら、絵具のチューブは、終わりだと思ってもぎゅうぎゅう押しゃあまだ出るでしょう。チューブのシッポを切ればもっと出せる」

なんとも…いつも素敵な言葉で、心をほんわり温かくしてくれます。

「どんなひどい状況でも、たとえ自由を奪われても、“面白い”と思うものを自分で見つける力さえあれば、乗り切れるということ。ラブを自分でつかむのよ。」

(画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

生まれてから天国へ行くまで、ワクワクを忘れなかった沙弥郎さん。
私も沙弥郎さんのように、いつもの日常をワクワクしながら面白がって生きたい。やりたいことがたくさん!元気で朗らかに200歳くらい生きたい。

“面白いことは、そこにある” “「分かる」「理解する」という前に「感じて」ほしい。“
これも沙弥郎さんの言葉です。
沙弥郎さんの作品を、大切に日常に取り入れてくれる方に買っていただきたい。沙弥郎さんの作品と共にワクワクしながら、何気ない毎日を楽しんでほしいです。

柚木沙弥郎作品はこちら (画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より亡くなる2か月前の最後の作品)

(画像:「柚木沙弥郎 永遠のいま」|図録より)

追伸

もう一人、大好きな陶芸家のリサラーソンが亡くなったのも2024年。
お二人は人生を目一杯楽しんで、いつもワクワクしながら生きていた。そのおかげか、お二人とも、かわいらしく長生きだ!素敵。
実は、最近リサの作品もたくさん入荷してきたのです。次はリサラーソンの特集も計画していますので、お楽しみに。

(文:柴田)

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