涼を感じよう
暑い日が続きます。35度越えは当たり前。体温以上の猛暑にバテバテの今年の夏。少しでも涼を感じたく、今回は見ているだけで涼し気なガラス製品についてご紹介します。ガラス商品と言えば、日本では江戸や薩摩を代表とする切子や琉球ガラスが有名ですね。海外ではイッタラやファイヤーキングなど、数多のブランドがあります。
そんなガラスの誕生は、今から約5000年以上前と言われています。ガラスが初めて作られたのは、メソポタミア文明が栄えたことで有名なチグリス川、ユーフラテス川の流域と言われています。
そんな長い歴史を持つガラス製品の中で、今回は「北欧フィンランドのグラスアート」に焦点を当て、その歴史と変遷についてご紹介します。なおここで紹介する作品は、岐阜県現代陶芸美術館にて開催された「フィンランド・グラスアート -輝きと色どりのモダンデザイン-」を参考にしています。
フィンランド・グラスアートの台頭
フィンランドは、19世紀初めまでスウェーデンの一地方でした。その後、ロシア領になったものの、1917年に「国家」として独立しました。独立を果たしたフィンランドでは、ガラス界を含む様々な側面でモダニズムが推し進められました。また、占領下で培われたナショナリズムによって、「北欧的」であるという選択が、「国家」「民族」そして自らの「アイデンティティ」であると認識し、フィンランドでは積極的に「北欧」が選択されました。
1930年代に入ると、各ガラス製作所はミラノ・トリエンナーレや万国博覧会への参加に向けて、国内コンペティションを数多く開催しました。これにより、優秀なデザイナーたちがガラス制作に携わるようになったのです。
このフィンランド・グラスアートの台頭期を代表するデザイナーが、アルヴァ&アイノ・アアルト夫妻、そしてグンネル・ニューマンです。
アルヴァ&アイノ・アアルト夫妻
4大建築家としても有名なアアルト。その活動領域は幅広く、建築設計・都市計画・照明器具やテキスタイルなどのデザイン、さらには、ガラス製品にもその優れた才能を発揮しました。「アアルト」はフィンランド語で「波」を意味するように、透明度が高く柔らかいガラスの特徴は彼の想像力を存分に表現できたことでしょう。「アアルト・フラワー」や湖を想起させる「サヴォイベース」は代表作となりました。
グンネル・ニューマン
フィンランドの女性ガラスデザイナー。ガラスの量感と質感を生かしたナチュラルなフォルムと気泡による繊細な装飾が国内外で高く評価されました。女性らしい柔和な線と表現力が感じられます。彼らが手が けた作品は、1933年、1936年のミラノ・トリエンナーレ、 博覧会、1939年のニューヨーク万国博覧会などで展示され、国際的に高い評価を得ました。彼らは、世界のモダンデザイン界に「フィンランド・グラス アート」の名を最初に刻んだパイオニアです。
黄金期の巨匠たち
第二次世界大戦とその敗戦によって、戦後フィンランドを取り巻く状況は困窮を極めました。しかしその逆境は反ってフィンランド人としてのアイデンティティの構築を促し、デザインもまた彼らが国際社会において自国を立 直すための重要な要素のひとつとなりました。1950年代以降、彼らは高級 志向の強いガラス製品である「アートグラス」や「ユニークピース」に注視し、 国際展示会場で展示していきました。特に、1951年、1954年、1957年のミラノ・ トリエンナーレでは輝かしい名声を得て、フィンランドはデザイン大国としての評価を確固たるものにしたのです。「黄金期」と呼ばれるこの1950年代以降、生涯を通してフィンランド・グラスアートを支えたのが、カイ・フランク、タピオ・ヴィルッカラ、ティモ・ サルバネヴァ、オイヴァ・トイッカの4人のデザイナー達です。
カイ・フランク
ガラスだけでなく、陶磁器・テキスタイルのほか、家具屋インテリアデザインなども手掛けたました。高い機能性と汎用性デザインが社会をより良くするという使命感を強く持ち続け、「フォンランドデザインの良心」と称されています。彼のガラスデザインの特徴は、全体的に渋めな色感覚を取り入れていることと言えます。色鮮やかなカラーを表現できるガラスですが、北欧の自然風土では強い太陽光の下では落ち着いたスモーキーカラーがより映えるのでしょう。
タピオ・ヴィルッカラ
アートピースでは、フィンランドの自然が彼の創造の源でした。ごつごつと男性っぽい力強い作品が多く、また、北欧の自然を愛し楽しんで作品を作りました。ガラスの透明度と自然を取り入れた彼の彫刻的フォルムを職人たちが高度な技術でプロダクト化してきました。 各ガラス製作所とデザイナー、職人との信頼関係の中で数々の名品が生み出されたフィンランドのグラスアート。デザイナーの自由な想像力を掻き立てるアートピースに職人の知恵と技術が重なり形になり、そこから発展した新しい技術やアイディアが製品化に生かされるという好循環により、我々の手元に素晴らしい製品が届くというわけです。
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(文:長谷川)